顔面神経麻痺(ハント症候群)の体験

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かれこれ10年近く前、その瞬間はある朝突然やってきました。

食べているものがこぼれ落ちているような、今まで感じたことのない不思議な感覚に襲われました。「ん・・・?」
「え?一体何が起きてる・・・?何事・・・???」

 

鏡の前に立ってみると、明らかに自分の顔がいつもと違っておかしい。
何がおきているのか全く理解できないまま、顔左半分がスローモーションのように崩れ落ちていくような、何ともいえない不安と恐怖にジワジワ包まれいく・・・・。

「顔面麻痺⁉」と思い当たるまでのその時間は、あっという間だったのか、スローモーションのように何分も経過していたのかは今でも思い出せませんが、まさに悪夢でとしかいいようがない、突然の出来事でした。

 

 

顔面神経麻痺のおもな種類

ベル麻痺
顔面神経麻痺の70~80%で、原因は寒冷刺激、過度の飲酒、精神的ストレス、過労などのようです。

ハント症候群
ベル麻痺の次に多く10~15%を占め、耳の帯状疱疹による発疹や耳の痛みをともなう麻痺。
水痘帯状疱疹ウィルスが原因とされていて、発症後に顔面神経に潜んでいたウィルスが再活性することにより、顔面神経麻痺が発症するようです。

私の症状は、2番目の「ハント症候群」でした。
ベル麻痺は比較的治りやすく、麻痺が軽度であれば1~2か月で完全に治るのに対して、ハント症候群は、完全に治癒する率は 60~70%程度とベル麻痺に比べて著しく 不良であり、後遺症を残すことも多くみられると言われています。
症状的にも完治はかなり難しく、何かしらの後遺症が残ることも覚悟しなければならず、ハント症候群を調べれば調べるほど不安が募る一方になり、底知れぬ絶望も感じました。

 

受診前のおもな症状

尋常ではない頭痛

麻痺の数日前から、痛みに耐えられない頭痛があり、たとえるなら、頭をアイスピックで刺されているような激痛が頻繁に起きるようになっていました。
市販薬では全く痛みが収まらず、治るどころがどんどん悪化し、
「もしかしたら脳梗塞か何か・・・?」とうい不安もよぎってきていたため、受診しようと思っていた矢先のことでした。

左耳周辺の腫れ

麻痺が起きる2日ほど前から、左耳周辺に赤みと痒みを感じましたが、我慢できないほどの頭痛に気を取られ、「何かにかぶれた?」ぐらいにしか思っていませんでした。
受診の際にわかりましたが、それは帯状疱疹の症状で、すでに頭から広がり耳や顔に及び始めていました。

当時、心身ともにストレスフルの状態を自覚していましたが、何とか無理やり乗り切ろうと自分を誤魔化していましたが、体がついに限界を感じて悲鳴をあげてしまったようです。
反省しても後の祭り、時すでに遅しの状態でした。

本来であれば入院して治療した方が良いとのことでしたが、当時はどうしても入院できない状況だったので、服薬のほか、注射のため2~3週間ほど毎日通院治療しました。

 

麻痺になって辛かったこと・不便だったこと

 動眼神経麻痺(物が二重に見えたりする)

顔の左半分が完全に麻痺しているので、そもそも瞼を閉じることができません。瞼を開閉するには手動で行う必要があるのです。
昼間起きている時は、いつもの癖で自然に瞬きができる錯覚に陥るため、つい閉じることを忘れて開きっぱなしにしがちなので、ドライアイになったり想像以上に目が疲れてしまいます。

着替えの時も、やはり瞼が開けっ放しであることを忘れてしまい、勢いよく指や洋服を眼に突っ込んでしまうし、洗髪の時も、すすいだお湯がどんどん目に入ってきてしまうので、目が沁みて慌てて気づく・・・なんてことも多々ありました。
(その後シャンプーハットやゴーグルを活用♪)

いままで無意識でやっていた「瞬き」の有難さを感じるきっかけにはなりましたが、「見る」という行為をはじめ、日常生活の何もかも億劫になりストレスに感じました。

 

 

 構音障害(うまく話せない)・食べづらい

口角が下がって唇を合わせることができないので、「ぱぴぷぺぽ」はもちろん、うまく発音ができないので、話しても相手にわかりづらい。口笛なんてもってのほか。

食べ物も麻痺側からこぼれ落ち、水分を摂ってもあふれ出てきてしまうので、お腹が空いていて食欲はあるのに、うまく食べることができないうえ時間もかかるため、食べることも億劫になって面倒になってしまいます。
必然的に、数キロ体重も減って思わずダイエットできましたが、その時は全く喜べない心境でした。

 

容貌の変化

やはり好奇の目で見られます。
外出するときは、マスクで口元は隠せても、目元はさすがに隠せない。
たとえるなら「殴られたボクサーみたい」という表現がわかりやすいと思いますが(当時子供が使った表現・笑)、左半分の筋肉が崩れ落ちていて全く動かないので、目元は全く張りがなく下がりっぱなしの状態。

それを知らない人が見ると、睨んでいるような怒っているように見えるらしく、相当スゴみのある顔だったようです(笑)

とにかく、人に会うことも話すのもイヤになります。
事情を話そうとしても、うまくしゃべれないので、説明さえままならない。
説明できたとしても同情されるのも辛くなるため、いっそのこと誰とも会わない方がラクだと思うと、可能なら引きこもりたい気分になったものです。

麻痺がどこまで治るのか全く見当がつかないので、鏡を見るたびに思い切り落ち込んでしまうため、当時は敢えてあまり自分の顔を見ないようにもしていました。
本当にやることなすこと、全てがストレスに感じていました。

 

仕事への影響

当然仕事もできる状態ではないので休むことにしましたが、どうしても断ることができない仕事が一つだけあり、顔面麻痺のまま講師として登壇しました(苦笑)

その仕事は、半年以上前に県から依頼を受けていた、2週間先に控えている講演会でした。
担当者に事情を話したところ、その講演の内容に限ってなかなか講師が見つかりづらいうえ、既に100名近い参加者が集まっているらしく、いまさらキャンセルするわけにはいかない流れに・・・。

とても2週間で治る見込みはないし、麻痺の容貌で人前に立つのは相当抵抗があるうえ、話しをしても相当聞き取りづらいはずですが、もう覚悟を決めるしかない状況となりました💦

 

講演当日は、麻痺症状の生活にだいぶ慣れてきたとはいえ、聞く人が驚くのでマスクをしたまま話そうかとも思いましたが、余計に発音が聞き取りづらくなることも考え、最初の挨拶でみなさんに事情をお伝えし、聞き苦しさとともに先にお詫びをしました。

「皆さんの人生で、顔面神経麻痺の真っ只中にうる講師から話を聞く機会は、そうそうないと思います(苦笑)」とご了承頂き、いつも以上にゆっくり丁寧に話したつもりですが、たぶん相当聞きづらかったと思います。
それでも、終わったあとは、クレームどころか多くの方々から励ましを頂いたり、人の温かさに触れる思い出深い経験をしました。

そして、最後にマスクをした女性が近づいてきて、「実は私も顔面麻痺になり、長年このままです」とマスクを外して挨拶してくださいました。
自分のゆがんだ顔は毎日見慣れていましたが、同じように麻痺した方を間近に見たのはそれが初めてでした。

後遺症が相当残ったままであることは一目瞭然で、なんと声をかけてよいか戸惑っていたら、女性のほうから明るく話してくださいました。

治療を続けても治ることがない現実を知ってから、接客の仕事も辞めざるを得なくなり、自分の顔を卑下するあまり、婚活する気持ちもなくなってしまい、何度も死のうと思ったこと。今は、親の為にも死ぬわけにはいかないので、何とか頑張っています・・・など色々話してくださいました。

たまたま参加した講演会の講師も、まさか自分と同様の経験をしていたことに、相当ビックリしたようですが、逆に親近感を覚えてくださったようで、お互い勇気をもらえた貴重なご縁となりました。

 

現在の状態

私の場合、発症後3~4カ月でだいぶ快方に向かい、日常生活にもあまり不便を感じなくなりました。
現在は、幸いにも80%ほどまで回復したように感じています(あくまで楽観主義の自分判断・笑)。

顔(特に目)のバランスは今でも明らかに違うので、コンプレックスが完全になくなることは今後もないと思います。
ただ、もともと絶世の美女とは程遠い顔立ちのうえ、自分が気にするほど人は自分のところを見ていないことも実感しているので、今では「一生付き合っていく相棒」として、自分のこの顔と付き合っています。

ちなみに、外出するときはアイラインをちょっと工夫しています♪
自分から、麻痺の経験があるとカミングアウトしない限りは、周りは殆ど気がつかないようで、
「全然わからなかった~」と言われるぐらい、殆ど気にならないようです。
(本音はわかりませんが・・・苦笑)

 

メイクに助けられているところも少しありますが、一番のポイントは「笑顔」だと思います。
笑っていると顔の左右差がわかりづらいので、「笑う門には福来たる」の一石二鳥だと思っています(笑)

 

おまけ

まさか自分が顔面神経麻痺になるなんて、夢にも思っていませんでしたが、最後に一つアドバイス♪

私は、まずかかりつけの「内科」で受診し、そこから紹介状で別の病院に受診しました。
顔面神経麻痺は耳鼻科の領域内にあるので、万一この病気にかかったら、最初から「耳鼻咽喉科」で受診することをオススメします。

もし自分や大切な人が、この先顔面神経麻痺になることがあった時、ちょっと思い出して頂ければ幸いです。

 

 

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